大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1510号 判決 1996年5月08日
大阪市鶴見区放出東二丁目一六番一一号
平成七年(ネ)第一五一〇号事件控訴人・同年(ネ)第一五五六号事件
件被控訴人(第一審本訴原告・反訴被告)
株式会社池田商事
右代表者代表取締役
池田立芳
右同所
平成七年(ネ)第一五一〇号事件控訴人(第一審本訴原告)
池田立芳
右両名訴訟代理人弁護士
木ノ宮圭造
同
滝井繁男
同
仲田隆明
同
小林邦子
同
重村達郎
東京都渋谷区恵比寿四丁目二〇番三号
平成七年(ネ)第一五一〇号事件被控訴人(第一審本訴被告)
リーバイ・ストラウス ジャパン株式会社
右代表者代表取締役
エー・ジョン・チャペル
アメリカ合衆国カリフォルニア州九四一一一 サンフランシスコ市バッテリーストリート一一五五 リーバイスプラザ
(送達場所 前記リーバイ・ストラウス ジャパン株式会社内)
平成七年(ネ)第一五一〇号事件被控訴人・同年(ネ)第一五五六号事件
控訴人(第一審本訴被告・反訴原告)
リーバイ・ストラウス アンド カンパニー
右代表者副社長兼財務役
ジョセフ・エム・モーラー
右両名訴訟代理人弁護士
伊集院功
同
辻巻健太
(以下、右各当事者を順次「原告池田商事」、「原告池田」、
「被告リーバイ・ストラウスジャパン」、「被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニー」という。)
主文
一 原告池田商事の本訴請求(予備的請求を含む)及び反訴請求に関する控訴、並びに原告池田の本訴請求に関する控訴をいずれも棄却する。
二 被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニーの反訴請求に関する控訴(当審における拡張請求、追加請求を含む)により、原判決主文第二項、第三項を次のとおり変更する。
1 原告池田商事は、被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニーに対し、金二六八五万円及びこれに対する平成五年九月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告池田商事は、原判決別紙商標目録記載の各商標のいずれかが記載されたジーンズ中、その裏地の左外側縫目に付されているケアラベル裏面上部に「六一八九CS三一」という番号が記載され、かつ、同下部に「五二四一〇九 八二〇一九-四」という番号が記載されているものを販売し、又は販売のために展示してはならない。
3 原告池田商事は、その所有にかかる前項のジーンズを廃棄せよ。
4 被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニーのその余の反訴請求(損害賠償請求)を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも本訴について生じた部分は原告らの、反訴について生じた部分は原告池田商事の負担とする。
四 この判決は、主文第二項1ないし3に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 平成七年(ネ)第一五一〇号事件
1 原告ら
(一) 原判決中、原告ら敗訴部分を取り消す。
(二) 被告らは、各自、原告らに対し、原判決別紙二記載の地域において発行される同別紙三記載の新聞に同別紙一記載の謝罪広告を同別紙四記載の条件で掲載せよ。
(三) 被告らは、各自、原告池田商事に対し、金七六〇〇万円及びこれに対する平成四年五月一八日(本訴の訴状送達の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(四) 被告らは、各自、原告池田に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成四年五月一八日(本訴の訴状送達の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(五) (予備的請求)
被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニーは、原告池田商事が原判決別紙物件目録記載の物件を破棄するのと引き換えに、同原告に対し、金七七〇万八一三四円を支払え。
(六) 被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニーの反訴請求はいずれも棄却する。
(七) 訴訟費用は第一、二審とも被告らの負担とする。
(八) 仮執行宣言
2 被告ら
(一) 主文第一項同旨
(二) 控訴費用は原告らの負担とする。
二 平成七年(ネ)第一五五六号事件
1 被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニー
(一) 原判決中、反訴請求に関する被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニー敗訴部分を取り消し、反訴請求に関する部分を次のとおり変更する。
(二) (原審における損害賠償請求額二九二万五〇〇〇円を当審で拡張)
原告池田商事は、被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニーに対し、金二九九〇万五一三四円及びこれに対する平成五年九月二日(反訴状送達の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) (当審で追加した商標権侵害行為差止請求)
主文第二項2同旨
(四) 主文第二項3同旨
(五) 訴訟費用は第一、二審とも原告池田商事の負担とする。
(六) 仮執行宣言
2 原告池田商事
(一) 本件控訴(当審で拡張、追加された請求を含めて)を棄却する。
(二) 控訴費用(右拡張、追加請求に関するものを含む)は被告リーバイ・ストラウスアンドカンパニーの負担とする。
第二 事案の概要
事案の概要(事案の概要の説明、争いのない事実等、争点及びこれに対する当事者の主張)は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決の事実及び理由中「第二 事案の概要」欄(六頁一行目から二一頁二行目まで)に示されているとおりであり(以下の略称は、原判決のそれによる。)、本件は、原告らが、被告らによる原告池田商事がリーバイス五〇一ジーンズの偽物である本件ジーンズを輸入、販売して被告商標権を侵害した旨の虚偽事実にかかる刑事告訴のために、警察の強制捜査を受け、また、テレビ、新聞等でその旨を報道され、その信用や名誉を毀損された等と主張して、不法行為に基づく損害賠償及び謝罪広告、予備的に(本件ジーンズの廃棄〔破棄〕請求が認容された場合に備えて)、原告池田商事が被告カンパニーに対し、不当利得の返還を求めた(本訴)のに対し、被告らはこれを争い、原審において、被告カンパニーが原告池田商事に対し、商標権侵害に基づく損害賠償(商標法三八条二項所定の商標使用料相当額の賠償)及び侵害行為組成物件(本件ジーンズ)の廃棄〔破棄〕を求めていた(反訴)が、更に当審において、被告カンパニーが右損害賠償請求を同条一項所定の侵害者が得た利益相当額の損害に拡張し、右廃棄請求の前提となる販売等の差止請求を追加した事案である。
【原判決の訂正等】
一 八頁九行目の「平成二年一一月一二日」を「平成二年一一月一三日(売買契約の時期は甲第七号証の一、二及び甲第九号証により認定)」と、同末行の「一〇八〇〇本」を「一万八〇〇本」と、九頁六行目及び八行目から九行目にかけての各「原告」、並びに一〇頁五行目の「原告」をいずれも「原告池田商事」と、末行の「損害賠償請求」を「損害賠償及び謝罪広告請求」と、一三頁一行目から二行目にかけての「信用上、営業上大打撃を受けた。」を「原告池田商事は、その信用を害され、営業上大打撃を受けた。」と、一四頁二行目の「棄損」を「毀損」と各改める。
二 一六頁八行目冒頭から一七頁六行目末尾までを、次のとおりに改める。
「(二) 本件ジーンズ一万八〇〇本のうち販売されなかったものの総本数、すなわち、原告池田商事保管分六一九本及び警察押収分二三七八本の合計は二九九七本であるから、同原告において販売済みの本件ジーンズの総数は七八〇三本である。前記争いのない事実のとおり、同原告による本件ジーンズの販売価格は一本当たり七〇〇〇円であるから、本件ジーンズ(七八〇三本)の総売上高は五四六二万一〇〇〇円である。これに対し、原告池田商事が自認する本件ジーンズの仕入原価(輸入価格)は一本当たり二五七一円九五銭である(この点は被告カンパニーも争わない。)から、本件ジーンズ七八〇三本の仕入原価は合計二〇〇六万八九二五円八五銭である。従って、原告池田商事の本件ジーンズ(七八〇三本)販売に伴う粗利益は合計三四五五万二〇七四円一五銭である。
しかるところ、大蔵省財政金融研究所作成の法人企業統計季報(平成六年四月~六月)では、右期間中の卸売・小売業の総売上高は一二三兆三一九九億六八〇〇万円、これに対する販売費及び一般管理費の総計は一七兆二八〇六億二七〇〇万円と推計されており、これによれば卸売・小売業における平均的な販売費及び一般管理費は売上高の約一四パーセントであるから、この比率をもとに本件ジーンズの販売について原告池田商事が要した販売費及び一般管理費を推計すると七六四万六九四〇円となる。
よって、原告池田商事が本件商標権侵害行為により得た純利益額相当額は、前記粗利益額三四五五万二〇七四円一五銭から右推計による同原告の販売費及び一般管理費七六四万六九四〇円を控除した後の金額である二六九〇万五一三四円と推計される。
右は、商標法三八条一項所定の損害賠償請求において、商標権者が粗利益額を立証した場合には、純利益額を算定するためのこれを減額する要素(本件の場合には本件ジーンズの販売に要した原告池田商事の販売費及び一般管理費)については、侵害者である同原告側が主張立証すべきものであるところ(大阪地方裁判所昭和六〇年六月二八日判決・判例時報一一五六号一三六頁参照)、本件においては、被告カンパニーが前記の方法で右減額要素を推計したうえで算出した同原告の得た純利益額相当の損害賠償を求めるものである。
(三) 被告カンパニーは、本件訴訟の追行を弁護士に依頼せざるを得なくなったが、右二六九〇万五一三四円に対する弁護士報酬規程に基づく着手金及び成功報酬の標準額は各一六九万五〇〇〇円であり、被告カンパニーが外国会社であることを考慮すれば、本件訴訟の追行に必要な(本件商標権侵害と相当因果関係にある)弁護士費用の額は、三〇〇万円を下ることはない。」
三 一八頁四行目冒頭から一〇行目末尾までを、次のとおりに改める。
「3 被告商標権侵害予防請求(侵害行為差止・侵害行為組成物件破棄請求)
(被告カンパニーの主張)
原告池田商事は、本件ジーンズが偽物であるにもかかわらず、同原告がメーベル社から並行輸入した真正品であると主張して争っている。しかるところ、原告池田商事は、本件ジーンズのうち六一九本を手元に保管しており、また、警察によって押収された同原告所有の二三七八本の本件ジーンズの所有権を依然として放棄しておらず、その還付を求めている。従って、将来、原告池田商事が再び本件ジーンズを販売して、被告商標権を更に侵害するおそれがあり、これを予防するためには、原告池田商事による本件ジーンズの販売又は販売のための展示を差し止めるとともに、同原告所有の本件ジーンズを破棄することが不可欠である。」
四 一九頁二行目の「一〇八〇〇本」を「一万八〇〇本」と改める。
第三 当裁判所の判断
一 原告らの請求(名誉毀損等の不法行為に基づく損害賠償・謝罪広告請求)
-本件告訴による名誉毀損等の不法行為の成否-について
当裁判所も、本件ジーンズは、被告カンパニーによって被告商標が適法に付されて拡布された真正商品であるとはいえず、原告池田商事の本件輸入販売行為は、被告商標権(被告商標の出所表示機能及び品質保証機能)を侵害するものであり、被告らの本件告訴は、犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的根拠をもってなされた正当な権利行使であるから、原告ら主張の名誉毀損等の不法行為は成立しないものと判断する。その判断の過程は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決の事実及び理由中「第三 争点に対する判断」欄一(二一頁五行目から三三頁七行目まで)に示されているとおりである。従って、原告らの本件損害賠償及び謝罪広告請求は、いずれもその余の点について判断するまでもなく、理由がない。
【原判決の訂正等】
1 二二頁三行目の「各証拠」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、同頁末行から二三頁一行にかけての「証人ホイール」を「原審証人ホイール、弁論の全趣旨」と改める。
2 二四頁二行目の「示している。」の次に「それに続く『一〇九』の部分は、製造時期が一九八九年(平成元年)一〇月であることを、末尾の『-四』の部分は、国内流通用であることをそれぞれ表示している。」を、三行目の「バンドル番号である」の次に「(なお、『C』は、生地〔デニム〕がコーン・ミルズ社製のものであることを表示している。)」を各加え、六行目の「三二×三二インチ」を「三二(ウエスト)×三六(股下の長さ)インチ」と改める。
3 二五頁末行の「異なっている」の次に「(但し、<5>については乙第七号証により認定)」を加える。
4 二六頁二行目の「<1>」から五行目の「伸びていない。」までを「<1>真正品の場合には、ウエストバンド(ジーンズのウエスト部分に縫いつけられている帯状の生地)の水平方向のチェーン・ステッチ(縫い目)は必ずウエストバンドの端まで伸びているが、本件ジーンズの場合には、右ステッチはウエストバンドの端まで伸びておらず、途中から一本縫いになっているし、ウエストバンド両端の垂直方向のステッチも不適格である。」と改め、二七頁五行目の「二工程」の前に「一旦縫製してから自動縫製機を止め、生地を九〇度曲げてから更に縫製を続ける」を加える。
5 二八頁三行目の「空紡糸」の次に「(オープンエンド糸)」を加え、四行目の「縦糸には」を「縦糸はリング糸であり、」と改め、六行目の「スタイルXXXHは」の次に「インディゴと他の染料を組み合わせて染色されており、」を加える。
6 二九頁六行目から七行目にかけての「検査済証明書」を「検査証明書」と改める。
7 三〇頁八行目の「考えられる。」の次に「更に、メーベル社の原告池田商事宛の見積書には、商品のサイズ別構成が明記されているほか、一万八〇〇本又は二万一六〇〇本の取引を予定していること、ストーンウオッシュ、水洗い若しくは不洗いの三種の選択が可能であることが示されている。そして、本件ジーンズに付されたボタン、ラベル、タグ等の各種の付属品は、その製造に高価な金型を必要とするものであるところ、本件ジーンズがわずか一本二〇ドル程度の商品である点を考慮すると、これを一万八〇〇本だけ製造したのでは到底採算が合わず、本件ジーンズの製造者は、同様の製品を多量かつ継続的に製造していると見なければ、経済的常識に反する。そうすると、本件ジーンズは、メーベル社がベネズエラ経由で香港から仕入れたもの(アメリカ合衆国へ輸入したもの)ではなく、同国内で大量生産されたものの一部であることが確実であり、その製造者は被告カンパニーの工場、特にそのサイプレス工場であると推認すべき根拠は十分にある。」を加える。
8 三二頁二行目の「右サンプルが」の次に「生地及びウエストボタンの刻印が真正品と異なっている点において、」を加える。
二 被告カンパニーの請求(被告商標権侵害に基づく損害賠償請求・商標権侵害予防請求)について
1 原告池田商事の過失の有無
当裁判所も、原告池田商事は、本件ジーンズを輸入販売するに当たり、並行輸入業者に対して通常要求される注意義務を尽くしておらず、同原告には、本件輸入販売行為による被告商標権侵害につき過失があったものと判断する。その判断の過程は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決の事実及び理由中「第三 争点に対する判断」欄二1(三三頁一〇行目から三八頁九行目まで)に示されているとおりである。
【原判決の訂正等】
(一) 三五頁七行目の「原告池田本人」を「原告池田本人兼原告池田商事代表者〔以下、単に「原告池田本人」という。〕の原審供述」と改める。
(二) 三六頁二行目の「原告池田」の前に「原告池田は、昭和五〇年からジーンズの取引に従事しており、原告池田商事はそれが法人成りしたもの(昭和六三年九月九日設立登記)であるところ、本件輸入販売行為以前は、必要に応じて、並行輸入業者等から一〇〇本程度の単位で五〇一ジーンズを仕入れて販売したことはあったものの、一度に一万八〇〇本もの五〇一ジーンズを仕入れるのは今回が初めてであったこと、」を、二行目から三行目にかけての「本件ジーンズ」の次に「(一万八〇〇本)」を各加え、四行目の「説明を受けたこと」を「説明を受けたが、その際、工場名や所在場所についての説明はなかったこと(ちなみに、原審証人ホイールによれば、被告カンパニーの五〇一ジーンズの生産能力は、最小規模のサンフランシスコ工場が一週間に七五〇〇本、最大規模のテネシー工場が同三万本である。しかるところ、前示のとおり、被告カンパニーは、アメリカ合衆国内においては小売業者に対してのみ卸売りする直販制をとっていたのであるから、右直販制の下で、メーベル社が被告カンパニーに直接注文して本件ジーンズを製造させることができたとは考え難い。)」と改める。
(三) 三七頁二行目の「キム・ヤン」の前に「フリージャーナリストである」を加え、「同年八月」を「平成二年八月」と、四行目の「売り手については」から七行目の「商談したが」までを「売り手の名前、住所、信用状況、被告カンパニーとの関係や取引実績については、同年一一月一二日、原告池田が本件ジーンズの買付けのためにニューヨークにヤンを訪問するまで、全く情報を得ておらす、同日になってようやく、売り手がニューヨークではなくマイアミにあるメーベル社であることを確知し、翌一三日、ヤンとともにマイアミに赴き、メーベル社の代表者オータ及びサンチェスと商談したが、その際、オータは英語が話せない様子でサンチェスが通訳していたというのであり、オータの経歴等も明らかでなかったにもかかわらず、」と改める。
2 損害賠償額
(一) 被告商標は、世界的に高い知名度と顧客吸引力を有し、特に五〇一ジーンズはジーンズの原型として高い評価を受けている(乙第一ないし第三号証、第一一号証の一ないし四、弁論の全趣旨)。そして、被告カンパニーは、日本国内において被告商標を付した五〇一ジーンズを被告ジャパンを通じて販売している(検甲第三号証、弁論の全趣旨)。
しかるところ、原告池田商事は、前示のとおり、本件ジーンズを輸入、販売したのであるが、本件ジーンズが大阪に到着した際、既に数本足りなかったことや、後記のように本件ジーンズの警察押収分と原告池田商事保管分との合計が二九九七本であることを併せ考慮すると、同原告は、本件ジーンズのうち約七八〇〇本(1万800本-2997本=7803本)を販売したものと推認されるところ、原告池田商事は、本訴において自己の損害を請求するにあたって、自ら平成三年三月一〇日ころから、自社の店舗他で、本件ジーンズのうち少なくとも七五〇〇本を一本七〇〇〇円の販売価格で販売した旨を認めているので、七五〇〇本の販売に関してはこれに従い、残りの約三〇〇本の販売に関しては、検甲第一号証の一によれば、本件ジーンズのうちには一本五八〇〇円で販売されたものもあることが窺えることを考慮して、控え目にみて少なくとも一本五八〇〇円で販売したものと推認するのが相当である。そうすると、結局、同原告は、本件ジーンズを合計約五四二四万円(7000円×7500本+5800円×300本=5424万円)で販売したものと推認される。そして、これに関し、原告池田商事は、前示のとおり、本件ジーンズの仕入原価(輸入価格)が一本当たり二五七一円九五銭であることを認めているから、本件ジーンズ約七八〇〇本の販売に伴う粗利益は、約三四一七万八七九〇円(5424万円-2571円95銭×7800本=3417万8790円)となる。なお、原告池田本人は、原審において、原告池田商事の経営につき、売上高の二五パーセントが粗利益となるよう配慮している旨供述しているが、右供述は、本件ジーンズの販売に限定してなされたものではなく、原告池田商事の販売活動全体を念頭においてなされたものであることが明らかであるから、右認定を左右するものではない。
ところで、本件ジーンズの販売に関する販売費・一般管理費については、直接これを明らかにする資料はないが、被告カンパニー提出の資料(大蔵省財政金融研究所編「法人企業統計季報」)によれば、平成六年四~六月当時の卸売・小売業における平均的な販売費・一般管理費は売上高の約一四パーセント(17兆2806億2700万円÷123兆3199億6800万円=14.01%)であり、全産業におけるそれは約一八パーセント(51兆5736億4300万円÷290兆3234億9000万円=17.76%)であることや、損害の算定にあたって不確実な要素があるときはできるだけ控え目で確実な範囲で算定するのが相当と考えられることを総合考慮すると、本件の場合、商標法三八条一項にいう侵害者(原告池田商事)が侵害行為(本件輸入販売行為)により得た利益(純利益)は、約二四四一万五五九〇円(約3417万8790円〔本件ジーンズ約7800本を販売したことによる原告池田商事の粗利益〕一約5424万円×18%〔本件ジーンズ約7800本の販売に原告池田商事が要したものと推定される販売費・一般管理費=約976万3200円〕=約2441万5590円)であると認めるのが相当である。他に、右純利益が、右金額を超えることを認めるに足りる的確な証拠はない。そうだとすれば、同法三八条一項により、商標権者(被告カンパニー)が受けた損害の額は、二四四一万円(一万円未満切捨て)と推定される。
(二) 被告カンパニーは、本件訴訟の追行を弁護士である同被告代理人らに委任している(弁論の全趣旨)ところ、訴訟追行の難易、前記認容額等諸般の事情を総合考慮すると、弁護士費用のうち原告池田商事の本件商標権侵害行為と相当因果関係にあるものは二四四万円であると認めるのが相当である。
(三) 従って、被告カンパニーの本件損害賠償請求は、右合計二六八五万円及びこれに対する本件商標権侵害行為(不法行為)後で、本件反訴状送達の翌日である平成五年九月二日(記録上明らかな事実)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
3 商標権侵害の予防(本件ジーンズの販売等差止・廃棄)
原告池田商事は、その所有の本件ジーンズ二三七八本を警察によって押収され、六一九本を手元に保管している(争いがない)が、右押収された本件ジーンズの所有権を依然として放棄しておらず(弁論の全趣旨)、本件訴訟において、本件ジーンズは並行輸入した真正品であると主張して争っている。そうだとすれば、将来、原告池田商事が再び本件ジーンズを販売して、被告商標権を更に侵害するおそれがあり、これを予防するためには、原告池田商事による本件ジーンズの販売又は販売のための展示を差し止めるとともに、同原告所有の本件ジーンズを廃棄する必要があるから、被告カンパニーの本件商標権侵害予防(差止・廃棄)請求は、いずれも理由がある。
なお、右の廃棄請求は、原審において商標権侵害の停止又は予防請求(差止請求)に付随してのみ請求できるものであるところ、差止請求がなされていないとの理由で却下されたものであるが、当審において差止請求が追加され、かつ、原審における審理の結果に照らすと、実質的に右廃棄請求の当否判断に必要な審理は既に原審において尽くされていると認められるので、右のとおり実体判断をすることとした。
三 原告池田商事の予備的請求(不当利得返還請求)について
被告カンパニーが、一九九一年(平成三年)七月一二日付けで、アメリカ合衆国フロリダ州南部地区連邦地方裁判所にメーベル社を相手方(被告)として提起した、同社の本件ジーンズ約一万八〇〇本の製造、流通及び販売による被告カンパニーの連邦商標権侵害等を請求原因とする侵害行為差止、損害賠償(三倍賠償)等請求訴訟について、メーベル社が被告カンパニー製品の偽造品、模造品等を購入、販売等することを禁止し、メーベル社が被告カンパニーに総額七五万ドルの損害賠償を支払うこと等を内容とする、翌一九九二年(平成四年)四月三〇日付けの「被告メーベル社に対する合意による終局的確定判決」が存在する(乙第五号証の一、第八号証)。
しかしながら、前示廃棄請求が認められたからといって、被告カンパニーが新たに法律上の原因なくして利益を受けることにはならないし、本件ジーンズの販売に関するアメリカ合衆国でのメーベル社との紛争についての右のような解決は、日本における原告池田商事と被告カンパニーとの紛争の解決とは別個の問題であり、右廃棄請求との関係で被告カンパニーに法律上理由のない利益を保有させることになるものでもないから、その余の点について判断するまでもなく、原告池田商事の本件不当利得返還請求(予備的請求)は理由がない。
四 結論
以上の次第で、原告らの請求及び原告池田商事の予備的請求は、いずれも理由がなく、原告らの請求を棄却した原判決は相当であり(原審は、被告カンパニーの廃棄請求を却下〔訴え却下〕したため、原告池田商事の予備的請求の当否について判断する必要がなかった。)、原告らの各控訴(原告池田商事の予備的請求を含む)は理由がないから、これを棄却し、被告カンパニーの請求のうち損害賠償請求(当審における拡張請求を含む)は、前示の限度で理由があり、商標権侵害予防請求(当審における追加請求を含む)は、いずれも理由があるから、これと一部結論を異にする原判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 長井浩一)